サーリアは、見た。
自分の眼前に、真白い翼が広がり、ひとりの天使が光臨するさまを。
「……ステファ、さ、所長?」
サーリアの言葉には答えず、天使は押しよせる深紅の闇に、やさしく片手を差しだした。
ただそれだけの動作で、闇は、ちりひとつも残さず一瞬ですべて消滅した。部屋には静
寂が戻り、溶かされた壁や扉も元の状態になっている。天使は、ゆっくりと優雅にサーリ
アへとふり向き、
『よく、最後まで見続けましたね、サーリア』
彼女はステファなのだろうか。たしかに姿形は、あのボケボケ天使とまったく同じであ
る。しかし、目前の天使の佇まいからは、人間であるサーリアが近づき難く感じてしまう
ほどの、圧倒的な〃聖性〃があふれていた。
『どうしましたか?』
「あ、いえ、そのー」
思わずしどろもどろにサーリアに、天使はふわりと微笑み、それから表情を真剣なもの
にした。『……ハミルがロザリーを殺害したのは、彼に思いをよせていたある女性の策の
せいです。ハミルは、ロザリーを深く愛するあまり、その稚拙な策にまんまと嵌り、最悪
な結果をだしてしまった』
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