「……フィアちゃんが、きっと助けてくれるはずで――」
希望的観測を口にしながらノブを捻り、扉を押しあける。
「――――ッ!?」
扉の外には深紅の闇が広がっていた。それ以外なにもない、虚空だった。血のように紅
い闇は生きているかのごとく蠢き、サーリアへと押しよせてくる。息を飲んだサーリアは、
あわてて扉を閉め直し、部屋の奥へと避難した。
しかし、闇はいともたやすく扉や壁を浸食し、溶かし、部屋の中まで入ってくる。まる
で粘液のようなそれには、無数の顔が浮かびあがり「どうして」という一言を、呪詛のよ
うにくり返している。
部屋が浸水するみたいに深紅の闇が、どんどん入りこんでくる。サーリアは背後の窓に
手をかけ、開いてそこから逃げようとした。しかし窓は、まるで壁に描かれた絵であるか
のように、1ミリたりとも動かない。
窓へと向いていたサーリアが、背後に圧倒的な気配を感じてふり向くと、
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっっ???」
巨大な、深紅の人面が宙に浮かび、メデューサのように緋色の髪の束をふり乱して、サ
ーリアに迫っていた。絶叫をあげるように大きく口が開かれ、サーリアは、もはや当然の
ように失神寸前で、号令がかかったのか緋色の髪の束が、蛇の大群のごとくサーリアに襲
いかかり――
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