たぶん屋敷の二階、今は内職の〃作業部屋〃と化している、あの一室だろう。部屋の中
央に立ちつくす青年。床には少女が倒れている。背中に深い深い刺し傷を受け、じわじわ
と広がり続ける血だまりに力なく俯せている。
 かすかに息があるらしい少女ロザリーの口からは、「どうして……、どうして……」と
いう疑問の呟きしかこぼれない。……死の間際の声が恨み言でもなく、美しい末期の言葉
でもないのが、悲しくも現実味があった。
「よかったのか……? これで……」
 殺傷した側の青年までが疑問を口にしている。
 しばらく、手の中のナイフを持てあましたように佇んでいた青年だったが、やがて血だ
まりに近づき、ロザリーの体を抱き抱えて部屋から出ていった。ロザリーの記憶である映
像は、もちろんそこで途切れる。
「…………ふぇぇ!?」
 そして、気がつくとサーリアは、ひとりきりでその部屋の隅に立っていた。意識の中に
流れこんでくるイメージ、今度はその中にサーリアがとりこまれたのだ。床に広がる血だ
まりからは、ほのかな温もりが湯気となって立ち昇っているようだった。
 ぶるっ、とサーリアは背筋を震わせる。もうなにも起こらないようだったが、これから
自分はどうすればいいのだろう? 考えて、ともかくこの部屋に長くはいたくないと、サ
ーリアは扉に向かう。別に、青年のあとを追おうという立派な考えによるものでは、決し
て、ない。
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