「こら! しっかりしろ、ロザリー! どうしちゃったの!?」
ざんっ、がしゅ! と続けざまにフィアの肌が浅く斬られる。
ロザリーが起こした霊気の渦は、居間にある調度品を宙に舞わせ、それはポルターガイ
スト現象のごとき様相だった。身の危険を感じ床に這いつくばったケーニスは、わけもわ
からず『……遺産への扉がついに開かれるのかーっ!!』などと叫んでいる。
……そんなわけはない。
「もしかして、あんた! 記憶が戻ろうとしてるの!?」
フィアはひとつの可能性に思いあたった。
玄関ホールから扉越しに居間の会話を盗み聞きしていたときのことだ。そのとき、ロザ
リーは、不意にぽつんといった。自分を殺した相手は自分にとって特別な存在だった気が
する、特別スキか特別キライかどっちかはわからないけど――、と。
それが、〃特別スキ〃であったのなら。
犯人候補としてハミルの名が上がったのを引鉄に、『自分を殺した』のが、『自分が愛し
ていた』相手だったと思いだしたならば。……ロザリーのこの状態も、十分に理解できる
とフィアは考えた。
ロザリーは、自分の記憶を受けいれることができず、錯乱しているのだ。
彼女の中のサーリアは無事だろうか? 頭の隅でそう心配しながらも、フィアはとにか
くロザリーを落ちせようと声をかけ続けた。けれど、その努力が報われる様子は、まるで
あらわれない。
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