ふたりで映ったその写真は、いまも共同住宅(アパート)のフィアの机の抽出にしまわ
れている。それは、ノート家の邸宅での暮らしを思いださせるものの中で、フィアが唯一、
大切にしているものだ。
* * *
『どうしたの、ぼーっとしちゃって?』
「へっ?」
いきなり間近で発せられた声に、フィアはびくっと肩をゆらして、我をとり戻した。
過去へと引きずられていた意識が、現実へと帰る。
ぱちくり瞬きをすると、扉の前にいたはずのロザリーが、すぐ目前に立ってフィアの顔
を下から覗きこんでいる。まるでくちづけを求めるような、吐息が触れあうほどの近距離
に、フィアは慌てて数歩、さがった。
背中がカーテン越しに窓硝子に当たって、がしゃん、と危うげな音を立てる。
『わたしが近づいても、ちっとも気づかないんだもの。変なの』
「だ、だからって、そんな、顔近づけないでよ!」
『フフッ、驚いた?』
「あったり前でしょ、もうっ!」
『ひとつ、質問があるの』
「な、なにっ? それより、くっつきすぎだってば!」
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