当然、難病を抱え、体力の衰えたフィアと走り回ったりすることはできない。
 それに、大きな音を立てて、邸宅のものに気づかれてもアウトだ。けれど、そんな限ら
れた条件の中でも、サーリアは幾つもゲームを考えだしフィアを楽しませた。真夜中の短
い、逢瀬。誰にも気づかれることなく続いたその時間の中で、フィアは少しずつ、とり戻
していった。
〃ひと〃としての当然の、さまざまなことを。
 毎夜のように楽しませてくれるサーリアに感謝の思いは尽きなかったけれど、フィアは
それを言葉にする術を持たなかった。そんなある夜、サーリアが、いったのだ。

 ――サーリア、ずっと、お嬢さまと仲良くなりたかったですよ。
 ――……え? どうして?
 ――お嬢さまが、すごくすごくキレイだからですぅ。さーりあ、あこがれてました。
 ――きれい……? あたしが……? そんなの、うそよ。
 ――ほんとですぅ。さーりあは、しょーじきの〃ぷろ〃ですから〜っ。

 そして、あるとき。それはフィアが十二歳になった誕生日のことだ。
 両親から贈られたドレスに身を包み、フィアは邸宅の中庭で、記念写真を撮ることにな
った。サーリアも一緒に映ることを希望したのは、フィアだ。一介の召使いの娘と写真を
撮ることに難色をしめした両親だったが、何枚も撮影する中の一枚だけ、という条件でな
んとか受けいれてもらえた。
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