――お嬢さま、さーりあといっしょに遊びませんか?

 はじめて、そう声をかけられた瞬間のことを、フィアは鮮明に覚えている。
 それは、フィアの世界にはじめて光が差した、瞬間のことだからだ。ある夜、寝室に忍
びこんできたサーリアが、フィアに遊ぼうと提案した。そのときまで、サーリアはフィア
を遠くに眺めたことしかなく、それはフィアも同様だった。同じ場所で暮らしていながら
ふたりの生活に接点はなかった。
 ノート家の邸宅には少女といえる人物はフィアとサーリアしかいなかった。サーリアは
ずっと、フィアと一緒に遊びたいと思っていたらしい。けれど、相手は近づくことすら許
されないご令嬢だ。母親が寝静まったのを見計らってフィアの寝室に忍びこむ。サーリア
の行動は小さな勇気だった。

 ――うん、でも、あたし、『遊ぶ』ってどうするか、わからないわ。

 それにフィアがうなずいたのも、生まれてはじめての勇気だった。

 ――だいじょうぶですぅ、さーりあは遊びの〃ぷろ〃ですから〜っ。
5
presented by KURONEKO-SAN TEAM
©KOGADO STUDIO,INC.