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 ――――フィアが、実家、ノート家の邸宅で暮らしていたころの記憶。
 それは、まだ、さほど昔のことではないのに、もう色褪せた遠い記憶となって、彼女の
胸の奥に沈んでいる。あの邸宅で暮らしていた自分は、〃みたい〃ではなく、たしかに人
形だったのだと、そう思う。
 あるいは鳥かごの中の小鳥だ。
 生まれてより原因不明の難病に悩ませられ続けたフィアは、邸宅から出ることも許され
ず、生活のあらゆる部分を、誰かに監視され、管理されるという日々だった。そこに自由
と名の付くものはひとつもなかった。
 そんな日々が当然すぎて、自分に自由がないということにすら気づいていなかった。
 本当に、ただ人形のように飾られていた。
 サーリアと出会ったのは、同年生まれのふたりが十歳になった年のことだ。サーリアは
邸宅で新しく働きだした召使いの女性の娘だった。父は亡く、母子ふたりで貧しい暮らし
をしていたところを、フィアの父に拾われたらしい。
 最初、フィアの目にサーリアは余りに異質な生命体として映った。
 自分と同じ年頃の少女だと思うことができなかった。それくらい、そのころのフィアと
サーリアは違っていた。あらゆる感情を閉ざし、一日のほとんどを寝室でなにもせずに過
ごしていたフィアと違い、サーリアはよく笑い、よく泣き、母の召使いの仕事を手伝えば
ドジばかりで、いつも叱られていた。
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