カップはもちろんステファが愛用している天使画の彫られた品であるし、カフェオレの
温度も砂糖の分量もコーヒー豆の種類も、すべて完璧にステファの好みを満たしていた。
いっそ悔しくなるほどの、隙のなさだ。
(アルテって……、もしや、ぱーふぇくとめいどっ!?)
「所長。よければこちらも、どうぞ」
「はうっ?」
きょとん、と所長らしさゼロの白痴ちっくな返事をしたステファに、アルテは、
「新聞が届いていましたので、お持ちしましたわ」
「"夜霧タイムス"?」
「はい」
「うーん」ステファはカップに口を付けたまま、唸り「でもね。いまは世の出来事なんか
より、わが探偵事務所をとり巻く問題のほうが重要だよ。新聞を読むような気分にはなれ
ないわ〜」
「ああ、例の『請求書』ですか?」
「そ。この探偵事務所を開いて三ヶ月。まだ、ひっとりも依頼人さんがきてないんだよ」
「……そうですね」
「家賃なんか、払えるわけがないよっ。あ、そーだ、フィアとサーリアは?」
「二階で造花づくりの内職を。もう、ずいぶん手慣れた様子でしたわ。さすがです」
「うう……、あの子たちにも苦労かけるねえ」
よよよよよ、とステファは手の甲を口もとに添え、芝居がかった愁嘆の声をだす。
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