* * *
聖なる天使は、やさぐれていた。
陽光が差しこむ屋敷の一階、依頼人との接見室を兼ねている居間で、ステファは深緑の
ソファーに腰をおろし、イライラと腕を組んでいる。元来、気性はマイペースであるのだ
が、いま彼女は、そうもいっていられない非常事態に見舞われていた。
「う〜〜……っ」
誰にも懐かない捨て犬のように唸り声をもらし、色気も素っ気もない動作で足を組んで、
たんたんっ、たんたんっ、と爪先で拍子を刻む。ステファの視線は、ソファーの前に置か
れた足の低いテーブルに注がれていた。
そこには一通の書類が広げられている。細かな印字で埋め尽くされたその紙きれは、死
刑宣告書にも等しい効力で、人知を超えた存在である天使を苦悶させていた。大方の読者
は想像がつくだろう、それは正しく『請求書』だった。
ステファが住まっている探偵事務所兼自宅である屋敷の、家賃の。
滞納しまくっている三ヶ月分の合計金額をまとめて払い"やがれ"、といった内容の。
払えねーんだったら出ていき"やがれ"、という書類だ。
「も〜、なんてこと!? なにが『〜やがれ』なの!? こっちはお客さまなのにっっ」
ぷんすか、と頭から漫画ちっくに蒸気を吹きあげて、ステファは頬を膨らませる。
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