「…………お嬢さまぁ」
懐かしい呼称を口にした。
ぴくん、とフィアの肩が小さく跳ねた。それから、わずかに苦いため息を吐き、「その
呼びかたはやめて、っていってるでしょ。もう、あの家は出たんだから」と、柔らかくた
しなめる。眉をしかめ、サーリアは半ば泣き声で、
「うう……、ごめんなさいですぅ。でも、でも……」
それ以上は言葉にならない。
まったくもう、と軽口を叩いて、フィアは小柄なくせにやたらと成熟した彼女の体から
腕をほどき、身を離した。不安げに視線をさまよわせるサーリアを、落ちつかせるように
肩に手で触れて、
「ほら、朝になるまで、まだ時間あるよ」
「あ、はいぃ〜」
「ぐっすり眠れるおまじない、してあげる」
「――え?」
なにげない、一瞬の接触。
かすめるように額に押しつけられた唇の感触に、サーリアは胸を撃ち抜かれるような衝
撃を受けた。再び、身を引いたフィアは悪戯っぽく「特別だぞっ」と微笑み、体をベッド
に投げだす。
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