フィアは手をのばし、サーリアの頬にかかっている黒髪を、指先で払った。
「――眠れないの?」
彼女の声は静かな音色で、だからかサーリアは素直にうなずいた。こくん、と。
「こわい夢でもみた、とか」
「………………」
ごく穏やかな問いに、サーリアは答えられない。その沈黙を肯定と捉えたか、フィアは
ちょいちょいと指でサーリアを招いた。糸で操られる人形のように、サーリアはゆっくり
ベッドの上で起きあがる。
肩から毛布がすべり落ち、冷えた夜気がネグリジェ越しに触れた。
「たまーに、気づいてたけどね。夜中、目を覚ましてんの」
仕方ないな、とでもいうようにフィアが肩をすくめた。サーリアは目を丸くする。
「……え、ホントですぅ?」
「とーぜん。なんか気づかれたくなさそうだったから、知らんぷりしてたけど」
彼女の優しさに、申しわけなくなる。やはり何度も起こしてしまっていたのだ。サーリ
アは居心地悪そうに、もじもじと身じろぎした。フィアは苦笑して「おいで」と、サーリ
アの胴に腕を回して抱きよせる。
強すぎない力で、花を愛でるように。母が子をあやすように。――あるいは――。
くらりとサーリアは目眩を覚えた。それは、夢と重なる既視感。
きっと、そのせいだ。
サーリアはフィアの髪に鼻先を埋め、かすかな、それでいて強い陶酔を含んだ、声音で、
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