「……こぉら、なにめそめそしてんの。……ふぁ」
「フィアちゃん……っ?」
 息を飲む。細目をあけたフィアと視線がぶつかった。
 すぐに、しまった、と思う。フィアは安眠を邪魔されることをなにより嫌っている。
 一発や二発、小突かれることを覚悟してサーリアはぎゅっと目をつむる。けれど、待て
ども痛みは訪れない。サーリアが恐々まぶたを押しあげると、フィアは「うにーっ」と眠
そうな猫のような声をだして、毛布の中で伸びをしていた。そのまま、また眠りについて
くれれば――、
 だが、サーリアの期待を裏切って、フィアは体から毛布を剥ぎ、まだ寝ぼけた覚束ない
足取りでベッドから下りた。素足で窓辺へと歩いていく。おもむろにカーテンをあけ、ち
らりと硝子越しに外を眺め、髪をゆらして戻ってきた。
「ね、夜の街がきれいだよ……、って、どーでもいいか……、ふぁぁ」
 呟きながら寝巻きの内側に手を入れ、お腹をぽりぽり掻く。「フィアちゃん?」と名前
をくり返すだけのサーリアを尻目に、フィアは四つんばいでベッドに上がり、シーツの上
に腰を下ろした。
 座った姿勢で、横たわったままのサーリアを見下ろし、なぜか不敵に微笑む。
 窓から差しこむ銀色の月明かりが、寝室を淡く照らしだしていた。サーリアは夜の匂い
が濃くなっていくような錯覚に陥る。ベッドサイドの小さな卓に置いた、鈴飾りのピアス
が、月光を反射してきらめいている。
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