いい逃れを許さぬフィアの口調に、サーリアは似合わないチンピラ的な表情を浮かべる。
『……へっ、バレちまっちゃー、しょうがないですぅ』
 じり、とフィアとの距離を保ったまま、サーリアは弧を描くように横移動。
 本気の度合いを示すように、びりびりと全身の気を逆立て、
『いくらフィアちゃんといえども、サーリアの熱いハートを止めることは不可能ですぅ』
「ふぅん。なら、どうするって?」にやにやと余裕のあるフィア。
『こうするですよぅ……!』
 子猫サーリアは、ぐっ、と身を屈めて全身のバネを利かせた。このとき、サーリアは気
づいていなければならなかったのだ。なぜ、フィアが、サーリアのヒゲアンテナの探知圏
の外から、一瞬にして目前にあらわれたのかを。
 フィアの右手薬指の〈宝具〉の指輪から、宝石が消えていることを。
『いくです! にゃにゃ――っ!!』
 床をけって天井へと跳び、さらに壁へと跳躍してフィアを撹乱する子猫サーリアの姿は、
常識外れの速度による残像効果で、無数の分身を生みだしていた。猫忍法とでも名づけた
くなる技だ。
 もはや常人では捉えきれるはずのない、突進!

『ぐっばいです、フィアちゃん!』

 呆気にとられたフィアを置き去りに、サーリアは階段を目指し――、
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