【二階廊下/15:40】


 一匹の子猫が、物陰を物陰を渡るようにして廊下を走る。
 目指すは、一階へと通じる階段。昼下がりの屋敷は、異様な静けさに包まれていた。け
れど、子猫は、高感度アンテナのようにヒゲをゆらし、油断なく周囲の気配を探っている。
まだ、誰にも気づかれていない。
(……行けるですぅ! こーゆう隠密行動なら、サーリアが一番ですっ)
 意気揚々と廊下の床をけり、階段へとサーリアが跳んだとき、

 ――ふん、どこへ行くつもり?

『にゃっ!?』
 まるで空間を割って出現したように、戦闘モードの顔をしたフィアが猫変身したサーリ
アの目前に立ちふさがった。跳躍したまま停止することができず、サーリアはフィアの胸
にぶつかって、床に落ちる。
「造花作りをほったらかしてさー」
 フィアは、腰に手をあててサーリアを睨んだ。
『にゃ、にゃう……、ちょっとトイレに……』
「〈宝具〉の力を使って? 騙されないよ、目的は――『伝説』のひとり占めでしょ?」
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