【一階食堂/15:30】


「ふふふ。天使には、ときとして罪を犯す勇気も必要なんだよ〜」

 一時間が過ぎたころ。
 表面上の穏やかさをとり戻した屋敷で、まずはじめに動きだしたのは、やはりというか
なんというかステファだった。『伝説のパン』を隠したキッチンは、一階玄関ホールを挟
んで居間の反対側にある食堂から行ける。
「みんな、素直に所長にゆずらないのが悪いんだからね……!」
 自らのルール違反をすっかり他人に転嫁して、ステファは先日も使った銀行強盗風のマ
スクをかぶり、こそこそと食堂中央にある長テーブルの脇を抜けていく。目指すはキッチ
ンへと通じる扉。
 探偵などより、こそ泥のほうが余程ふさわしいのでは? と思わせる見事な無音歩行で
ステファは扉に辿りついた。完璧主義のアルテのことだ、うかつに扉をあけては致死性の
トラップにかかてしまう可能性もある、とステファは推測する。
 慎重に、ときに大胆に扉の周辺を調べ、大小およそ三十数個におよぶ仕掛けを発見した。
さすがアルテね、と冷汗を拭いながら、ステファはそのすべてを解除した。それは、まさ
に高度な知略戦。仕掛けに気づかず扉をあけていれば、恐らくステファは無数の肉の断片
へと変わっていただろう。
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