それはまっ黒かった。
 それはまん丸だった。
 それは硬質だった。
 てゆーか、それはパンではなかった。……ステファが謎の人物〃覆面の者〃と会ってい
れば、あるいは紙袋をよく観察していれば、もっと早く気づけたのかもしれない。『伝説
のバ・ン』の〃バ〃の字は、最初から〃バ〃として書かれていたし、黒点の汚れに見えた
ものは、よくよく顔を近づけて見てみればそれが小さく書かれた文字だとわかっただろう。
〃覆面の者〃は、フェアを好むのかきちんとヒントは残していてくれたのだ。
 黒点に見えたのは、小さく小さく書かれた〃ク〃と〃ダ〃という字だった。
『伝説のパ  ン』
ならぬ、
『伝説のバクダン』。
 しかし、〃覆面の者〃に会っていなければ紙袋をよく観察もしなかったステファは、そ
れがすり変えられたものだと気づかない。いや、それでも一目見ればわかりそうなものだ
が、なにせ相手は『伝説』なのだ。
 黒くてまん丸で、食べものとは思えないほど固い。……こういうパンなのかもしれない。
 あまつさえ、ステファはよだれまで垂らした。
「うふふ、ま、いいわ。いっただっきまーす。どきどき☆」
 くあ、と天使らしからぬ、……その前に女性らしからぬ意地汚い大口をあける。
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