【一階台所/16:45】

(……あれ? わたし……)

 思考のとぎれから回復して、ラスティは不思議そうに首をかしげた。
 ひとりきりだった。台所に、他の人影はない。記憶が混乱していた。
 まるで、なにかの衝撃で歯車がひとつ壊れ、上手く曲を奏でられなくなった、オルゴー
ルみたいに。
 それが些細なでこぴん一発で、もたらされたものであることも、思いだせない。
 自分はこんなところでなにをしてるんだろう。裏庭からこの台所へ入ってきたことは覚
えている。……そして、なにかを見た、のだろうか? わからない。ただ、体に感覚が残
っていた。
 なにか、言葉を発しようとしていた、感覚が。

「お、か……?」

 おぼろげな感覚だけを頼りに、口を動かす。「お」。そして、「か」。
 自分は、なにをいおうとしていたのだろう。いいかけて、中断してしまったような、違
和感があった。
……「か」、に続く単語はなんだったのだろう。
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