【一階台所/16:35】

 裏庭から中に入るには、キッチンにある裏口を使うのが普通だった。
 だから、ラスティはごく自然とそうした。
『伝説のパン』を納めた戸棚には、夕食までも決して誰も近づかないように、との厳命が
アルテよりくだされていたが、「キッチンに入るな」といわれたわけではない。だからラス
ティは、それほど気にしていなかった。
 抜けがけする、という選択肢が頭にないからこその大らかな判断である。
 日当たり的に屋敷の裏側は陰になることが多く、裏口の鉄扉はひどく錆ついている。ノ
ブに手をかけて、立てつけが悪いことを知っているので、ラスティは力をこめて鉄扉を引
いた。ぎいいいいーっ!! と耳障りで派手な音が鳴る。
(あぅぅ……、いやな音)
 近く、修理をしたほうがいいと思いながら、この探偵事務所には屋敷の修繕に回す余裕
などないことを思いだした。そんなもののまえに探偵たちの――、とくに所長の生活水準
の改善が必要なのだった。
「わたしの家に、こうゆうのの修理道具、あったかなぁ……」
 やや視線を上向けて思案しながら、ラスティは裏庭からキッチンにあがった。

「――――っっっ!?」
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