【一階台所/16:37】

 ラスティが口にすることができた言葉は、そこまでだった。

 夜へと傾きつつある日差しを、ラスティは背に受けていた。
 屋敷の裏庭から通用口の扉をあけ、台所に入った。もちろん、台所の戸棚にしまわれて
いる『伝説のパン』を奪おうなどと考えたわけではない。ただの通り道として、台所が適
切だっただけだ。
 そこに、大きな〃?(ハテナマーク)〃の描かれた覆面を被った、謎の人物がいた。
 自ら、ハテナを主張しているのだ。これが謎の人物でなくて、なんだというのだろう?

 台所。『伝説のパン』が納められた、戸棚の前。把手に手をかけようとした姿勢。

 謎の人物は、覆面だけでなくマントで全身をすっぽり包んでいて、しかも一言も声を発
さなかった。正体を掴む情報はなにひとつなかったといっていい。しかし、その〃覆面の
者〃と相対した瞬間、ラスティはまるでなにかの霊感に導かれたかのように、ごく自然に
呼びかけていた。

「どーしてここにいるの? おかー……」

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