【正面玄関前/16:30】
――ならば、死ね。
屋敷の正門に立つ謎の人物……、〃覆面の者〃は、言葉と裏腹にわずか半歩踏みだした
だけで、その動きを止めた。かたや正面玄関の前に陣取り、刃を抜いた仕込み杖をかまえ
ているアルテとの距離が、半歩分だけ縮まる。
目に見える起こった出来ごとはそれだけだ。
ふたりが対峙し、これまでに過ぎた時間はおよそ十五分。
両者、ともに動かない。
いや、……動けない、といったほうが正解かもしれない。
アルテは、背筋に走るおぞけにも似た武者震いを相手に気取られないように、自制して
いる。
たった半歩だけ詰まった間隔。けれど、そのわずかに縮まった距離が、不可視の刃を喉
元に突きつけられているように、アルテに冷汗をかかせていた。ここまで緊迫している彼
女など、探偵事務所の面々の中にもいないだろう。
(……何者です? この相手は……?)
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