『フィア、明かり持ってきてるでしょ?』
「あ、うん。それは、だいじょーぶだけど……」
ロザリーの確認を受け、フィアは角灯型の魔力灯に明かりを点し、かかげた。開ききっ
た鉄扉の向こうへ光が投げかけられる。長きにわたり凝っていた闇が、光に切りとられ室
内の様子を浮かびあがらせた。
『なにもかも、あのときのままよ。あの、最期のときと……』
みなに淡々と告げて、ロザリーは踏みこんでいく。臆したように、その場に留まるフィ
アたちへ顔だけふり向き、『フィア。来てくれないと、なにも見えないわ』と叱った。一同
は、なぜ自分が前!? と抗議するステファを、だって所長だからとぐいぐい押して地下
室内に入っていく。
――そこは、さほど広くない煉瓦造りの空間だった。もとはワイン倉だったようだ。四
方の壁を占める木棚と、並べられたワインの瓶が証明している。部屋の隅には管理ノート
の置かれた粗末な事務机が据えられていた。
揺らめくことのない魔力の光に照らされた室内は、まるで造りものの舞台装置のように
現実味を感じさせない。だが、ロザリーは目に映るすべてを懐かしむように、視界に収め
ている。
なに考えてるの、とフィアはロザリーに声をかけるが反応がない。
彼女の意識は、現在でなく五十年前にまで戻っているのだろうか。
「ふむふむ……」
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