カーテンを開けたままだったせいで、窓からは夜の町並みが見えた。
探偵事務所の屋敷の二階、通称〃作業部屋〃にフィアは踏みいる。部屋は暗がりに支配
されていて、先ほどまでいた一階の居間よりも室温が低いように感じた。造花作りに使う
接着溶液の匂いが、ツンと鼻を刺す。
フィアは天井を飾る魔力灯のスイッチを入れ、そのまま窓辺へ歩んだ。
しゃっ、と音をたててカーテンを閉める。階下ではアルテが、〃伝話(でんわ)〃で呼
びだし、到着したばかりのケーニスという青年を、居間で接客しているはずだ。複雑な表
情をしたまま、フィアは窓辺から部屋の扉へとふり返った。そこには興味津々といった顔
のサーリアが立っていて、部屋のあちこちを見回している。
「……サーリア、きょろきょろしない」
つい、いつものように叱りつけてフィアは、眉をしかめた。
サーリアは、実年齢より下に見られがちな幼げな顔立ちに、どこか大人びた笑みを浮か
べてフィアを見返す。愉快そうな――、フィアをからかうような、〃サーリア〃らしくな
い、表情で。
花びらのような唇からこぼれるのは、サーリアの声であって、別人のものだ。
『もう、間違えないでっていってるでしょ。いま、この体はロザリーのものなのよ?』
腰に両手を添え、身を乗りだすようにして注意してくるサーリア――『サーリアに宿っ
ている』と語るロザリーという少女の声に、フィアは軽く舌打ちをする。
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