「その質問は、まるで『なんで』なのか把握できていないようにも聞こえますけど?」
どこまでも冷ややかで、落ちついた口調。
「……まさか。『なんで』なのか、わからないとでもいうおつもりですか? 所長?」
アルテの言葉に、ステファは喉元に刃を突きつけられたような引きつった表情になる。
「や、やだなー。わかってる。わかってますともっ」ステファは慌てて手をふり「わ、わ
たしがね。先週のノルマ分の仕上がった造花を、ゴミと間違って、まとめて捨てちゃった
から……」
アルテ、フィア、サーリアが重々しく『こっくり』と肯いた。
そう、ステファの大ボケ行為の結果、収入0どころか、違約金を払うはめになったのだ。
それはただでさえ、(よくいえば)慎ましい生活をよぎなくされているランクレー探偵事
務所にとって、まさに壊滅的打撃といえた。『今日、飯を食う金がない』という世知辛い悩
みに、偉大な天使であるはずのステファが頭を痛めること、すでに三日。もう三日が経っ
ている。
仕事の依頼者がこない以上、考えうる最善の策は今週の造花作りのノルマを一刻も早く
仕上げて、一刻も早く報酬の支払いを受けとること。……たしかに、名探偵をきどる探偵
事務所所長ステファには、納得のいかない光景かもしれない。
自業自得なので、情状酌量の余地はないが。
「理解しているなら、問題はありません。さ、作業を進めましょうね。ふふふ」
アルテは、〃飴と鞭〃のお手本のように、鋭い表情から一転、母性を感じさせる優しい
笑顔をへと変わる。
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